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訪問看護指示書

訪問看護指示書から理解する訪問看護の仕組み

訪問看護は、在宅医療を支えなくてはならない存在であり、高齢化の進展に伴って、益々その役割は拡大しています。
2018年度の診療報酬改定では、「退院支援加算」が「入退院支援加算」と改称されました。
地域包括ケアシステムにおいては、地域の高齢者が入退院を繰り返しながら在宅療養を続ける事を前提としている為、病院と在宅がよりスムーズに連携する事を狙ったものと言えます。
機能的な地域包括ケアシステムを構築する為には、医療機関である病院と在宅医療を繋ぐ役割を訪問看護が担っていかなければなりません。

しかし、訪問看護は、その利用にあたって制度が複雑だと言われています。
その最も大きな理由は、訪問看護が「介護保険」と「医療保険」の両保険制度で使え、尚かつ利用者の条件によって使える保険制度が異なるからです。
これは、訪問看護が「介護保険」制度が出来る以前から「医療保険」で利用出来る仕組みとして導入され、その後「介護保険」によって利用範囲が拡大してきた経緯があるからです。
この為、利用者の状況によって、「介護保険」か「医療保険」か、どちらの保険制度が適用になるのか判断が難しい場合があります。
又、「介護保険」「医療保険」の適用についての同一要件を表現する用語が違う(法令、省令での名称と保険請求の際の名称が異なる等)場合もあり、混乱の原因になっています。
実際の指定訪問看護事業所の運営においては、対応保険種別、単位数、療養費、各種加算などの実務知識が必要になりますが、その背景となる制度設計や根拠となる法制度についても知っておくと理解の助けになります。

在宅療養における訪問看護の利用においては、主治の医師(主治医)に大きな裁量権を持たせる仕組みとなっています。
主治医が必要と判断すれば、必要とする方には訪問看護を提供出来るようになっています。
つまり、主治医の判断を起点とした制度設計になっていると捉える事で、全体の制度を理解する事が容易になります。
そこで、本説明では、主治医が訪問看護を介入させる際に交付する「訪問看護指示書」を中心に訪問看護の制度を見る事で、その制度設計に対する理解を促進する事を目的としました。

訪問看護指示書とは

訪問看護指示書とは、訪問看護ステーションなど指定訪問看護事業者が利用者に対して訪問看護を提供する際に、主治の医師(主治医)から指示を受ける為に交付して貰う文書を指します。
訪問看護は、「介護保険」「医療保険」のどちらでも利用出来ますが、其々の保険制度を定めている「介護保険法」及び、「健康保険法」に関連する省令において、「主治の医師による指示を文書で受けなければならない。」と定められています。

指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(介護保険法関連)

第六十九条・第二項
指定訪問看護事業者は、指定訪問看護の提供の開始に際し、主治の医師による指示を文書で受けなければならない。


指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(健康保険法関連)

第十六条・第二項
指定訪問看護事業者は、指定訪問看護の提供の開始に際し、主治の医師による指示を文書で受けなければならない。

保険医療機関である病院や、診療所に設置された訪問看護事業所は、介護保険法の「みなし指定訪問看護事業所」として扱われる為、特に届出を必要とする事なく「介護保険」「医療保険」での訪問看護が可能です。
この場合、主治医は当該保険医療機関の医師である為、訪問看護指示書の交付は不要ですが、診療録に記載される指示がその代わりとなります。
同様に、精神科を標榜する保険医療機関からは「精神科訪問看護・指導」を行う事が出来ますが、利用者が要支援・要介護の認定を受けていても、「医療保険」による訪問看護となります。

指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(健康保険法関連)

第十六条・第四項
当該指定訪問看護事業所が指定訪問看護を担当する医療機関である場合にあっては、前二項の規定に関わらず、第二項の主治の医師の文書による指示並びに前項の訪問看護計画書及び訪問看護報告書の提出は、診療録その他の診療に関する記録(以下「診療記録」という)への記載をもって、代える事が出来る。

訪問看護指示書の交付を受けて「介護保険」で訪問看護を提供する場合

「介護保険」で訪問看護を利用出来る条件

  1. 65歳以上の方(介護保険第1号被保険者)

要支援・要介護の認定を受けている方

  1. 40歳以上65歳未満の方(介護保険第2号被保険者)

16特定疾病(本ページ下部参照)の対象者で、要支援・要介護の認定を受けた方

主治医からの訪問看護指示書の交付を受けて、「介護保険」で訪問看護を提供する場合、前提として、利用者が要支援或いは、要介護の「介護認定」を受けている必要があります。

認定審査を経て、要支援1~2又は要介護1~5の認定を受けていれば、ケアプランに基づいて訪問看護(要支援の場合は、介護予防ケアプランによる介護予防訪問看護)を提供出来ます。
ケアプランに組み込める範囲内であれば、原則利用制限はありません。
1日に複数回の利用、毎日の利用、2ヶ所以上の訪問看護ステーションを利用する事(看護師は1人対応が基本)も可能です。
但し「介護保険」では、介護度(要支援1~2又は要介護1~5)によって支給限度基準額が設定されていますから、限度内であれば1ヵ月に利用した訪問看護サービスの1割から3割が利用者の負担となりますが、支給限度基準額を超えた分は全額利用者負担となります。

「介護保険」で訪問看護を利用する場合、第1号被保険者と第2号被保険者で条件が異なります。
これは本来、「介護保険」が高齢者を対象にした医療・介護の総合的な支援を提供する為の制度である為、第2号被保険者に対しては、特定の疾病を起因とした要支援・要介護の状態である事を条件にしています。

但し、要支援・要介護の認定を受けていても、下記の条件に該当する利用者には「医療保険」で訪問看護を提供する場合があります。
医療依存度が高くなっても、必要な介護保険サービス(訪問看護以外)を減らす事なく訪問看護を提供する事が可能です。

  1. 厚生労働大臣の定める疾病等本ページ下部参照)の方(特掲診療料施設基準等・別表第7に該当する方)

  2. 精神科訪問看護が必要な方(認知症は除く)

  3. 状態が悪くなり(急性憎悪期)、病状が不安定で、頻繁に訪問看護が必要な方、終末期や退院直後に訪問看護が必要な方(主治医から特別訪問看護指示書が出されている期間利用可能)

訪問看護指示書の交付を受けて「医療保険」で訪問看護を提供する場合

「医療保険」で訪問看護を利用出来る条件

  1. 40歳未満の方
  2. 40歳以上65歳未満の方(介護保険第2号被保険者)

16特定疾病の対象者ではない方

  1. 40歳以上65歳未満の方(介護保険第2号被保険者)

16特定疾病の対象者であっても要支援・要介護に該当しない方

  1. 65歳以上(介護保険第1号被保険者)

要支援・要介護に該当しない方(介護保険を利用しない方も含む)

  1. 要支援・要介護の認定を受けた方の中で次に該当する方

厚生労働大臣が定める疾病等の方(特掲診療料施設基準等・別表第7に該当する方)

〉精神科訪問看護が必要な方(認知症は除く)

〉状態が悪くなり(急性憎悪期)、病状が不安定で、頻繁に訪問看護が必要な方、終末期や退院直後に訪問看護が必要な方(主治医から特別訪問看護指示書が出されている期間利用可能)

「介護保険」での提供が「医療保険」での提供より優先されますが、「医療保険」での訪問看護は「介護保険」ではカバーしきれないケースにおいて補完する役割もあります。
「医療保険」での訪問看護は、主治医が必要と判断すれば利用出来、年齢制限は特になく、通院困難でなくても利用可能です。
但し、一時的な利用ではなく、看護師の関りが「継続的に必要」という条件があります。
更に、「医療保険」での提供は「介護保険」にはない利用上の原則があります。

  1. 1回あたりの訪問看護は30分以上90分未満
  2. 1日1回
  3. 週3回迄
  4. 1ヶ所の訪問看護ステーションから
  5. 看護師は1人対応

※但し、これら利用上の原則を外れて「医療保険」で訪問看護を提供出来る場合があります。

  1. 特別訪問看護指示書による指示期間
  2. 厚生労働大臣が定める疾病等(「特掲診療料施設基準等・別表第7」に該当)
  3. 厚生労働大臣が定める状態等(「特掲診療料施設基準等・別表第8」に該当)

別表第7と別表第8で訪問看護の利用上の原則から外れて可能な事

別表7(厚生労働大臣が定める疾病等)

  1. 週に4回以上の訪問看護
  2. 1日に複数回の訪問看護
  3. 2箇所以上のステーションの併用
  4. 複数名の訪問看護
  5. 退院時・外泊時の訪問看護
  6. 医療保険対応になるグループホーム、特定施設への訪問看護

別表8(厚生労働大臣が定める状態等)

  1. 週に4回以上の訪問看護
  2. 1日に複数回の訪問看護
  3. 2箇所以上のステーションの併用
  4. 複数名の訪問看護
  5. 退院時・外泊時の訪問看護
  6. 長時間の訪問看護

特別訪問看護指示書とは

特別訪問看護指示書とは、患者の主治医が、診療に基づき、急性増悪等により、一時的(14日以内)に頻回な(週4日以上)訪問看護を行う必要性を認め、訪問看護ステーションに対して交付する特別な指示書の事を指します。
特別訪問看護指示書の交付により、以下の事が可能になります。

  1. 1日に複数回の訪問
  2. 週4日以上の訪問
  3. 複数の指定訪問看護事業所からの訪問
  4. 複数名の看護師による対応
  5. 90分を超える訪問が週1回可能
  6. 退院直後から2週間(14日間)、毎日でも訪問可能

特別訪問看護指示書は月1回の交付が可能ですが、別に厚生労働大臣が定める者については、月2回迄の交付が可能です。

厚生労働大臣が定める者

  1. 気管カニューレを使用している状態にある者
  2. 以下の(イ)又は(ロ)の何れかの真皮を越える褥瘡の状態にある者
    (イ) NPUAP(The National Pressure Ulcer Advisory Panel)分類Ⅲ度又はⅣ度
    (ロ) DESIGN-R 分類(日本褥瘡学会によるもの)D3、D4又はD5

医療保険による長時間訪問看護とは

1回の訪問看護時間は、基本的に30分以上90分未満ですが、90分を超えた訪問を長時間訪問看護加算として、医療保険で対応出来る場合があります。

  1. 15歳未満の超重症児又は準重症児(週3回、加算で対応可能)
    ※超重症児又は準重症児とは、「超重症児(者)判定基準」によるスコアが10以上の利用者
  2. 別表第8に該当する利用者(週1回)
  3. 特別訪問看護指示書に係る訪問看護を受けている者(週1回)

この加算を算定した日以外の日には、「その他の利用料」で適応されます。
但し、その他の利用料は、利用者の選定(希望)する特別な訪問看護に対する差額費用としての利用料で、各事業所によって料金が異なります。

医療保険による複数名訪問看護とは

訪問看護を提供するにあたって、同時に複数名でケアを行う必要性がある時に、複数名訪問看護加算として、医療保険で対応出来る場合があります。

  1. 別表第7、別表第8に該当する利用者
  2. 特別訪問看護指示書に係る訪問看護を受けている者
  3. 暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる者
  4. その他利用者の状況等から判断して、上記の何れかに準ずると認められる者(看護補助者の場合に限る)

※看護職員と看護等(理学療法士、作業療法士等を含む)との同行 ⇒ 週1回限り

※看護職員と看護補助者との同行 ⇒ 週3回迄

医療保険による入院中の訪問看護について

入院中に退院に向けた一時的な外泊支援を、医療保険で対応出来る場合があります。

  1. 別表第7別表第8に該当する利用者(2回迄)
  2. 在宅療養に備えた一時的な外泊にあたり、訪問看護が必要であると認められた者(1回限り)

16特定疾病

  1. 癌(※)
  2. 関節リウマチ
  3. 筋萎縮性側索硬化症
  4. 後縦靱帯骨化症
  5. 骨折を伴う骨粗鬆症
  6. 初老期における認知症
  7. 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)
  8. 脊髄小脳変性症
  9. 脊柱管狭窄症
  10. 早老症
  11. 多系統萎縮症
  12. 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
  13. 脳血管疾患
  14. 閉塞性動脈硬化症
  15. 慢性閉塞性肺疾患
  16. 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

※医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。

厚生労働大臣が定める疾病等

「特掲診療料施設基準等・別表第7」に該当
訪問看護は「医療保険」対応

  1. 末期の悪性腫瘍
  2. 多発性硬化症
  3. 重症筋無力症
  4. スモン
  5. 筋萎縮性側索硬化症
  6. 脊髄小脳変性症
  7. ハンチントン病
  8. 進行性筋ジストロフィー症
  9. パーキンソン病関連疾患(※1)
  10. 多系統萎縮症(※2)
  11. プリオン病
  12. 亜急性硬化性全脳炎
  13. ライソゾーム病
  14. 副腎白質ジストロフィー
  15. 脊髄性筋萎縮症
  16. 球脊髄性筋萎縮症
  17. 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
  18. 後天性免疫不全症候群
  19. 頚髄損傷
  20. 人工呼吸器を使用している状態 
  21. 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病については、ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上かつ、活機能障害度がII度又はIII度のものに限る
  22. 線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群

厚生労働大臣が定める状態等

「特掲診療料施設基準等・別表第8」に該当
訪問看護は「医療保険」対応

特別な管理のうち重症度等の高い場合

  1. 在宅悪性腫瘍患者指導管理若しくは、在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある者。又は、気管カニューレ若しくは、留置カテーテルを使用している状態にある者

特別な管理を要する場合

  1. 在宅悪性腫瘍患者指導管理若しくは、在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある者。又は、気管カニューレ若しくは、留置カテーテルを使用している状態にある者
  2. 人工肛門。又は、人工膀胱を設置している状態にある者
  3. 真皮を越える褥瘡の状態にある者。又は、在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している者
  4. 在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している者

参考:特別管理加算の対象者(介護保険の場合)

※ 区分支給限度基準額の枠外加算となります。

  1. 在宅悪性腫瘍患者指導管理若しくは、宅気管切開患者指導管理を受けている状態
  2. 気管カニューレ若しくは、置カテーテルを使用している状態
  3. 在宅腹膜灌流指導管理、在宅血液透析指導管理、在宅酸素療法指導管理、在宅中心静脈栄養法指導管理、在宅成分栄養経管栄養法指導管理、在宅自己導尿指導管理、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理、在宅自己疼痛管理指導管理又は、在宅肺高血圧症患者指導管理を受けている状態
  4. 人工肛門又は人工膀胱を設置している状態
  5. 真皮を越える褥瘡の状態
  6. 点滴注射を週3日以上行う必要があると認められる状態

参考:診療報酬点数

訪問看護指示料

訪問看護指示料は、在宅での療養を行っている患者であって、疾病、負傷の為に通院による療養が困難な者に対する適切な在宅医療を確保する為、指定訪問看護に関する指示を行う事を評価するものであり、在宅での療養を行っている患者の診療を担う保険医(患者が選定する保険医療機関の保険医に限る。
以下この項において「主治医」という)が、診療に基づき指定訪問看護の必要性を認め、当該患者の同意を得て、別紙様式16及び別紙様式17を参考に作成した訪問看護指示書に有効期間(6月以内に限る)を記載して、当該患者が選定する訪問看護ステーションに対して交付した場合に算定する。
尚、1か月の指示を行う場合には、訪問看護指示書に有効期間を記載する事を要しない。

特別訪問看護指示加算

患者の主治医が、診療に基づき、急性増悪、終末期、退院直後等の事由により、週4回以上の頻回の指定訪問看護を一時的に当該患者に対して行う必要性を認めた場合であって、当該患者の同意を得て、特別訪問看護指示書を、当該患者が選定する訪問看護ステーションに対して交付した場合に、1月に1回(別に厚生労働大臣が定める者については2回)を限度として算定する。
ここで言う頻回の訪問看護を一時的に行う必要性とは、恒常的な頻回の訪問看護の必要性ではなく、状態の変化等で日常行っている訪問看護の回数では対応出来ない場合である事。
又、その理由等については、特別訪問看護指示書に記載する事。
尚、当該頻回の指定訪問看護は、当該特別の指示に係る診療の日から14 日以内に限り実施するものである事。

・厚生労働大臣が定める者

  1. 気管カニューレを使用している状態にある者
  2. 以下の(イ)又は(ロ)の何れかの真皮を越える褥瘡の状態にある者
    (イ) NPUAP(The National Pressure Ulcer Advisory Panel)分類Ⅲ度又はⅣ度
    (ロ) DESIGN-R 分類(日本褥瘡学会によるもの)D3、D4又はD5
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